服従して馬鹿になるか?ヒーローで虚栄を張るか?服従の心理

スタンレー・ミルグリムの”アイヒマン実験”が解明した人間の悪魔的本性

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  1. ユダヤ人絶滅計画を遂行した謎の服従の心理
  2. 数百万人のユダヤ人をガス室へ移送した凶悪な悪鬼
  3. ヒーローになるか?それとも『服従の心理』で馬鹿になるか
  4. 今では実施不可能な『アイヒマン実験』とは

ユダヤ人絶滅計画を遂行した謎の服従の心理


なぜホロコースト、ジェノサイドはおこなわれたのか?

学生の頃買った『アウシュヴィッツの記録』という写真集を見ながら考えたことがある。
それ以降ずっとその疑問が頭から離れなかった。
なぜ一握りの人間だけではなく、ナチスドイツ国民全員が加担したのか?

そこに良心はなかったのか?

誰かが抵抗してもよかったはず。
確かにアドルフ・ヒトラーには抵抗勢力がいた。
ヒトラーは生涯で42回も暗殺事件を起こされてるが、ただ、抵抗勢力の規模としてはゾウに尻尾で叩かれるハエレベルだろう。

いくらヒトラーがユダヤ人を絶滅させろと命令しても、服従する兵士がいなければこのような惨事はおこらなかったはず。

ヒトラーがたった1人で数百万人ものユダヤ人を絶滅工場へ送り込み、まるで鶏肉にされるブロイラーを卸すように同胞である人間を殺すことなんてできっこない。

絶対服従の兵士たち

総統ヒトラーの、悪意と殺意、ひん曲がった差別的思考がみなぎる命令をドイツ国民が馬鹿正直に遂行したからだ。

ホロコーストを遂行したナチスドイツ国民は「人間の皮を被った悪魔」「悪行を楽しむサジェスト」だったのか?
戦慄が背中を駆け巡る悪事を実行したナチス党員たちが、ドス黒い血が流れ、苦痛と恐怖で魂を抜かれた白目向く凍れる死体を見て、聞くに耐えない軽薄な笑い声とともにハンバーガーを食える変人だったら、納得感が得られたかもしれない。

アウシュヴィッツに強制移送されたユダヤ人達

だけど、1961年イスラエルで始まったあるナチス高官の裁判は世の中に衝撃と疑問を投げかけることになった。

数百万人のユダヤ人をガス室へ移送した凶悪な悪鬼

1960年5月11日、南米アルゼンチンのブエノスアイレス、仕事の帰りのバスから降りて自宅へ向かう途中だった。

路肩に止めてあった窓のないバンから出てきた数人の工作員によってその男は引きづり込まれた。
痩せ細り、ハゲあがった57歳のその男はどこにでもいる平凡な小男だった。

なんと彼こそ、ナチスドイツ帝国内外から集めた数百万人のユダヤ人を悪名高いガス室へ移送した悪鬼、アドルフ・アイヒマンだった。


東欧地域の数百万人のユダヤ人を絶滅収容所に移送する責任者であったアドルフ・アイヒマンは、ドイツ敗戦後、南米アルゼンチンに逃亡して「リカルド・クレメント」の偽名を名乗り、自動車工場の主任としてひっそり暮らしていた。

実はナチス党員の多くは戦後、世界中に疑惑を巻き起こした南米逃亡を成功させていた。
なぜ南米だったのかについては別の記事にまとめているのでそちらをどうぞ。

ヴァチカンがナチスのホロコーストを批判できなかった理由


小男を拉致した工作員イスラエルの諜報機関モサドは、リカルド・クレメンスをアイヒマンと断定した根拠はクレメントが妻との結婚記念日に花屋で彼女に贈る花束を購入したことであった。

その日付はアイヒマン夫婦の結婚記念日と一致してた。
結構、危うい、ヨレヨレの根拠だったっぽいが、モサドに拘束されたアイヒマンは最初はしらばくれてたが、あっさり認めたみたい。

そのアドルフ・アイヒマンのイスラエル裁判で世界に衝撃を与えたのは狂乱した人格異常者というには程遠く、どちらかというと「職務に励む公務員」というのがぴったりだった。

イスラエル裁判に現れたアドルフ・アイヒマン(左)

イスラエル尋問官曰く

「あそこまで魂を売り渡した心理状態の男を私はこれまで見たことがない。我々は知的水準の極めて高い男と対峙していると感じていた。だがその一方で、我々の目の前にいるのは無に等しい男であり、一から十まで協力的で一度たりとも面倒をかけず、時には自分から協力を申し出る腑抜けだった。」

イスラエル尋問官より

獄中のアイヒマンは部屋や便所をまめに掃除したりして神経質な面はあったが、至って普通の生活を送っており、獄中のアイヒマンを知る人物は「普通の、どこにもいるような人物」と言われてたっぽい。

「1人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」

アドルフ・アイヒマンのイスラエル裁判の発言より

という言葉を残したアドルフ・アイヒマンは自身の犯行について

「戦争中には、たった1つしか責任は問われません。命令に従う責任ということです。もし命令に背けば軍法会議にかけられます。そういう中で命令に従う以外には何もできなかったし、自らの誓いによっても縛られていたのです。私に罪があるとすれば、それは従順だったことだ。」

そんなことから
「アイヒマンはじめ多くの戦争犯罪を実行したナチス戦犯たちは、そもそも特殊な人物であったのか。それとも妻との結婚記念日に花束を贈るような平凡な愛情を持つ普通の市民であっても、一定の条件下では、誰でもあのような残虐行為を犯すものなのか」と疑問を持つ心理学者が現れた。

それがスタンレー・ミルグリムである。
彼がおこなった「アイヒマン実験」とは、このアドルフ・アイヒマンから生まれた疑問を検証した実験だった。

つまり、人は誰であれ、馬鹿になって悪魔になる服従の心理を兼ね備えているということを科学的に証明したのである。

ヒーローになるか?それとも『服従の心理』で馬鹿になるか

あなたは断れますか?
体制に立ち向かう1人のヒーローってのマーベルスタジオのヒーロー映画の十八番で、先の展開が大体予想がつくんだけどあえてみてしまう面白さがある。

それは逆に言えば、大半の現実社会は権力に絶対服従だからだ。


服従とは、人を権力の体制に縛り付ける素質的要素。

スタンレー・ミルグリムはアドルフ・アイヒマンのいう「命令に従順すぎた罪」が「アイヒマンだから」ではなく、誰でもごくごく平凡で警察のお世話にならない人々でも起こりえるのでは?と、ふとそんな考えが頭をかすめたところから着想を得たとか。


史実として数百万人ものユダヤ人が大虐殺された経緯と理由は別の記事にまとめているのでそちらをまずは読んで頂きたいんだけど

ヒトラーがユダヤ人をホロコーストにした理由

1度殺害して加害者の中で心理的な葛藤が生まれていたとしたら、2度目は躊躇しただろうね。
ただ、数百万人という犠牲者の数からするとそんな傾向はなかったと思える。

この犠牲者数からすると絶え間なく繰り返された蛮行だった。
普通のドイツ国民がユダヤ人を殺害したのは「殺したかった」からではなく、「命令に従うことが義務」だったからだとすると己の良心に煙幕を張る役割を担っているのではないか。

だけど、命令に従順でいることを強いられたナチス党員の心理的な負担は凄まじく、それがまた凶悪であまりの戦慄に膝から崩れるほどの黒歴史が刻まれる事になる。

それについては別記事にまとめているのでそちらを参照して欲しい。

アドルフ・アイヒマンが移送したユダヤ人の末路

ホロコーストの謎!ユダヤ人大虐殺に至った血も凍るプロセスとは?

良心に反することを強いられた時、従うべきか否かの道徳的問題は実はあのプラトンも著作に残している。
それぞれの時代で解釈され、「権威が邪悪な行為を命じた時でも、権威構造にひびを入れるよりはその行為を遂行するようがよい」という保守的な人もいる。

中には「実行者の責任はなく、それを命じた権威にのみ責任がある。
しかし、個人の道徳的判断と相反する時にはそれをはねのけるべき」という理想論者もいるが、軍隊では命令違反は軍法会議にかけられて投獄されるか、最前線に異動か、下手するとその場で射殺もありえる。

となると一択のみで「服従」する以外にはなかったのではないか。

そんな”馬鹿”状態だったアドルフ・アイヒマンに果たして罪はあるのか?
1961年12月、人道に対する罪や戦争犯罪の責任などを問われて12月、アドルフ・アイヒマンは絞首刑となった。

同じ殺害行為により戦勝国となった国々はなぜ「人道に対する罪、平和に対する罪」に当たらないのか理解不能だが、これは戦勝国が日本を裁いた東京裁判と同じで茶番だったかも。

大罪はナチスの権威の象徴だった「総統ヒトラー」だったということになる。


さてさて、人は誰でも悪魔になりうることをスタンレー・ミルグリムはどのように実験で証明したのか?
核心部分に入っていこう

今では実施不可能な『アイヒマン実験』とは

アイヒマン実験を擬似体験してもらおう。

登場人物は3人。
あなたは「記憶と学習の研究」の実験に参加する。
実験者、教師役、生徒役があって、あなたは「教師役」なのね。

実験者はあなたに説明する。

「学習に対する罰の効果を実験する。生徒役は単語リストを暗記し、教師役がそれをテストする。間違えるたびに罰として電流を流す。ただし、間違えるたびに与える電気ショックの強度は上がっていく」

間違える度に強度がアップする電気ショックを浴びる生徒役

実験者の説明の後、生徒役は別室へ案内され、椅子に座らされ、下手に動かないように縛り上げる。
そして生徒役の手首に電極を設置する。

教師役のあなたはその様子をみてる。
教師役は質問室に戻され、ショック送電機の前に座らされる。

アイヒマン実験に使われた送電機

送電機にはご丁寧に「微かなショック」とか「危険」とか付箋がつけられている。

あなたが生唾をゴクリと変な緊張感に襲われることは確実。
その送電機は15V〜450Vまで可能。

さて実験開始だ。


生徒役が間違えるたびに電流ボタンを押す教師役のあなた。
ただ、生徒役は75vから壁の向こう側から文句が聞こえてくる。

120vではっきり教師役のあなたに聞こえる文句を発し始め、150vで生徒役から

「やめてくれぇ〜!実験をやめてくれぇ〜」

醜怪な悲鳴を聞きながら、電気ショックを与え続けることはできるのか

と悲鳴に近い抵抗してくる。
その後も生徒役からは感情的な悲惨な悲鳴が壁越しに教師役のあなたの耳に襲ってくる。

285vで生徒からは言葉がなくなり、眼球の毛細血管がちぎれるかと思えるくらいの悲鳴と、地獄の苦痛に悶絶する様子を教師役に想像させるのに易しい金切声のみが聞こえてくる。

それ以降は送電しても生徒役からは何も聞こえなくなる。

当然、教師役のあなたは送電するたびに不安に陥る。

Q. あなた:ホントに大丈夫なの?続けて?

A.
(実験者は以下を段階的に回答)
勧告1:お続けください。
勧告2:実験の為にあなたが続ける事が必要です。
勧告3:あなたが続ける事が絶対に必要です。
勧告4:続けなさい。

教師役のあなたが実験者にそのように質問すると実験者はというふうに徐々に言葉が強くなりつつ、命令する。
もしあなたが次のように生徒役を心配して質問したとしよう

Q. あなた:生徒役の彼が電気ショックにより傷がつくのでは?

A.
実験者:ショックは痛いかもしれませんが、皮膚組織に損傷が残る事はありません。どうぞお続けください

しかし、悲鳴を聞いた教師役のあなたは冷たい変な汗をひたいから落としながら、さらに不安に陥る

Q. あなた:生徒役はやめたがっているが大丈夫なの?

A.
実験者:生徒役の彼には了承を頂いております。単語を完全に覚えるまで続けなければならない。

ちなみに人間は濡れた身体の場合、42vが「死にボルト」と言われている。

さてあなたはどこまで送電し続けるでしょうか。
実はこのアイヒマン実験の種明かしをすると実験者と生徒役はグルで、実際は送電されていない。


教師役がどこまで実験者の命令に従うかを見られていたのだ。
40人の教師役のうち、最高の450vまで送電し続けた悪魔は65%にあたる26人にもなった。

アイヒマン実験は平凡な人間も悪魔になる事を証明

生徒役と教師役が近ければ、近いほど服従の確率は下がっていくが、「死にボルト」を基準に考えると全員100%躊躇なく殺害している結果が出ている。


このアイヒマン実験に参加したのは一般公募で大学の生徒たちがほとんで精神に異常をきたした変態でもなければ、終身刑を言い渡された連続殺人鬼でもない。

平凡な通行人Aに過ぎないのだ!

数百万人をガス室に移送した”小役人”アドルフ・アイヒマン

私は多分、最後まで送電し続けるかもしれない。
だって「実験者がそういうなら・・・」って誰でも思うよね。

それに自身に返り血を浴びない殺人では「ただボタンを押してるだけ」という心理状態が無意識に先行し、殺害している感覚すらないかもしれない。

だけど、心理的な重圧によるストレスは想像を絶するものになるかと。
ただ、生徒役の悲鳴が聞こえる距離にいた場合は!という前提条件がついてくるかも。
つまり、なにも聞こえない場合、葛藤すらないかもしれないって事なのよ。

ということはアウシュヴィッツのガス室は加害者側を考慮した大量殺人工場化していた事になる。
ただ頑丈な密室の屋根の穴からツィクロンBというガスを投下するだけだからね。


あなたはどう?ヒーローになれる?それとも馬鹿になる?

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